噛む力が弱くなる・固いものを口にすると顎が痛い・噛みきれない、飲み込みにくいなど様々な弊害が起こりますが、このことは正常なことなのです。
高齢者の食事形態に詳しい筆者がその特徴についてご紹介します。
- 目次
- 1. 高齢者にとって食べにくい食事・食材の特徴
- 1-1. 噛みにくい
- 1-2. 飲み込みにくい
- 1-3. むせやすい
- 2. 高齢者の食事に影響をおよぼす機能低下
- 2-1. 味覚の衰え:味覚細胞が減少
- 2-2. 視覚、聴覚、嗅覚、触覚、温覚とともに味覚も衰える:料理の色や香りを感じにくくなる
- 2-3. 噛む力の低下:歯がなくなるなどで、噛む力が若いころの1/3〜1/4に
- 2-4. 飲み込む力の低下:食べ物がのどを通りにくくなる
- 2-5. 唾液が減少
- 2-6. 消化液の減少・胃腸の働きが低下
- 2-7. 喉の渇きを感じにくい
- 3. 高齢者の食事形態
- 3-1. 高齢者が食べやすい食事とは
- 3-2. 本人の嗜好、見た目や季節感も大切に、食欲増進の工夫が必要
- 4. 介護食のポイントは?高齢者の食事の特徴と食事形態についてのまとめ
高齢者にとって食べにくい食事・食材の特徴
高齢者が食べにくいと感じる食事内容には特徴があります。
まず、年齢を重ねるにつれどのようなものを食べにくくなるのか、食材の特徴についてお話します。
1-1噛みにくい
繊維がかたい・弾力が強い食材
繊維がかたい、弾力が強い食材などは噛みにくく高齢者の食事には適していません。
分かりやすい例を挙げると、スルメイカやグミなどです。このような繊維がかたく噛みにくい食材が高齢者の食事に合わない理由は、3つあります。
①年齢を重ねるにつれて噛むが弱くなっている
②噛む力が弱くなっているため、噛み切ることができない
③歯茎が耐えることのできる力の大きさも減少している
この3つは高齢になれば誰でも起こり得る現象です。
1-2飲み込みにくい
繊維が残る
次に、飲み込みにくい食材も高齢者には適していません。
例えば、水分が少なくパサパサしているパンやカステラなどです。これらの食材は、口の中にはりつきやすいため、高齢者が食べる食材として適しません。ワカメや、もなかの皮なども該当します。
飲み込むことが難しい食材を食べる事は誤嚥につながる原因になりますので、控えてください。
1-3むせやすい
酸味などの刺激
また、酸味の強いお酢や柑橘類はムセを助長しますので適しません。
液体と固体が混ざっていて気管に流れ込みやすい
そのほか、寒天ゼリーなど滑りが良すぎる食材も誤嚥の原因をつくり、大変危険です。特に、嚥下障害のある方には禁忌の食材の1つとなっています。
もし、食べる場合は状況に適したトロミを加える必要性があります。
高齢者の食事に影響をおよぼす機能低下
ここでは、高齢者の食事に影響を及ぼす機能低下について解説します。
高齢になると身体のあらゆる不調が併発して起こる可能性が高くなるため、食事のとり方も工夫する必要性があります。
2-1味覚の衰え:味覚細胞が減少
とくに塩味、甘味の感覚が鈍く
高齢になると味覚が衰えます。特に塩分や甘みに関して働く細胞の感知が鈍くなります。高齢者の方で味の濃いものが好きという方多いですよね。
糖尿病などの病気が原因である場合もありますが、味覚が衰えていることが原因であるかもしれません。
味覚が衰えると食事に対する関心も減退しますので、このような兆候があらわれたら食形態を工夫していく必要性があります。
2-2視覚、聴覚、嗅覚、触覚、温覚とともに味覚も衰える:料理の色や香りを感じにくくなる
食欲減退にも繋がる
年齢を重ねると、五感の衰えがきます。特に、老眼や耳が聞こえにくくなるという視覚と聴覚の衰えを感じる方は多いですが、味覚も同様に衰えます。
そのため、食事を満足に楽しむことができなくなり食べる量が減るといったケースもすくなくありません。
今まで好きであった食べ物にも関心がなくなってきたという場合は、注意が必要です。
2-3噛む力の低下:歯がなくなるなどで、噛む力が若いころの1/3〜1/4に
柔らかいものばかり食べる傾向
高齢になると、歯の本数が減るなどの理由から噛む力が若いころの1/3〜1/4ほどになります。
そのため、やわらかいものを好んで食べるようになり、栄養の偏りがみられるようになり、健康状態が悪くなってしまいます。
栄養バランスの偏り、食物繊維不足による便秘の原因に
特に、固い食材に多く含まれる食物繊維が不足しやすいことから便秘の原因にもなってしまうのです。
これを防ぐ為に、普段から固いものを食べている方は良いのですが、柔らかいもののみを食べるという習慣がついている方は注意が必要です。
2-4飲み込む力の低下:食べ物がのどを通りにくくなる
食べ物がつかえたり、むせたりしやすい
また、飲み込む力が低下することもあります。そうなると、飲み込みやすい柔らかいものばかりを好んで食べる食生活になってしまいがちです。
これは、加齢により飲み込むために必要な筋肉が衰えることにより起こります。
つらいことが続くと食事が嫌になることも
部分的に喉の筋肉を鍛えることは大変難しいため、介護施設などでは飲む込みをスムースにする目的で口腔体操や嚥下訓練などが行われています。
2-5唾液が減少
食べ物が飲み込みにくくなる
食物を分解する・飲み込みやすくするために必要なのが唾液の分泌なのですが、高齢者は唾液の分泌量自体が減少し、食事の分解や飲み込みがしにくくなります。
口の中が荒れてしみる、食欲低下につながることも
唾液には口腔内を殺菌する・潤いをあたえる作用もあるため、分泌量が減れば、口内炎などの口腔内トラブルの発生率や口の中が切れて出血するなどの症状が出やすくなります。
2-6消化液の減少・胃腸の働きが低下
消化吸収能力が低下
加齢に伴い胃腸の働きが衰え、食事を分解する消化液の分泌量も低下していきます。
消化不良や下痢をしやすくなる
すると、胃部の不快感や食欲減退につながる場合があります。
胃腸の不調により食欲不振にも
また、消化する速度も遅くなるため、食事の摂取量も減っていきますので栄養失調を起こしやすいです。
2-7喉の渇きを感じにくい
水分補給をせず脱水症状をおこしやすい
加齢に伴い、喉が渇くということを感じにくくなります。通常、1日に2リットル程度水分を補給しなくてはいけませんが、高齢者の多くは基準摂取量を下回っています。
食事の際のみ飲むという方も少なくないのでしょうか。水分は酸素と同様に身体を保つ重要成分ですので意識して摂取しなくてはなりません。
高齢者の食事形態
加齢に伴い、食事の形態にも変化があらわれるようになります。
ここでは、高齢者が食べやすい食事の形態とそれぞれの食事の特徴を述べます。
3-1高齢者が食べやすい食事とは
高齢者が食べやすい食形態は、高齢者食・介護食の2つです。
高齢者食
・加齢に伴って起こるからだの変化に適応した食事
・家族と同じ食事・普通食を食べやすく工夫したもの
高齢者食とはいっても、食事の内容はそこまで変わりません。
大きな違いは、飲み込みにくい食材や固い食材を出来るだけ取り除いた食事であるという点です。
それ以外の大きな違いはありません。
介護食
・弱まった食べる機能を補ってくれる食事
・適正な食事形態は低栄養予防、窒息予防の観点からも重要
介護食は、喉の機能や飲み込みやすさを重視した食事です。数あるメニューから好きなものを選ぶというのが一般的で、介護食の宅配などもおこなっています。
栄養素を吸収しやすい食材などを豊富に取りいれたメニューが特徴的で、管理栄養士によって作成されています。
介護食の種類
介護食の種類は大きく分けて4つです。
①きざみ食
きざみ食とは、高齢者が食べやすいようにサイズを調整した食事形態です。
噛みにくい肉類やハンバーグなどまとまったものをあらかじめ食べやすく切った状態で提供します。
②ミキサー食
ミキサー食とは、食事の栄養素はそのままにミキサー上にして提供する食事形態です。
見た目上では、何の食材であるのか特定が難しいですが、飲み込むことが難しくなっている高齢者に適用しています。
③とろみ食・ゼリー食
トロミ食やゼリー食は、食事内容はそのままにとろみをつけて提供することで誤嚥を防ぐ食事形態です。
介護施設などでは、多くの方はとろみのついた食事を摂取しています。状況に応じて小さじ何杯分など違いがあり、医師の指示によって変化します。
④軟菜食(ソフト食)
固いものを食べる事が難しい高齢者には、軟菜食を推奨することがあります。
この食事形態は、現在ある歯を維持する目的や誤嚥を防ぐ目的で用いられることが多いです。
3-2本人の嗜好、見た目や季節感も大切に、食欲増進の工夫が必要
高齢者の食事形態は様々ですが、そのことによって食欲が減退ということがあってはなりません。
その方の嗜好をいかした食事形態にしていき、食事を摂取したいと思って頂けるような状況を作る必要性があります。
そのために、季節感のある食材や見た目をアレンジするなど工夫が必要です。
介護食のポイントは?高齢者の食事の特徴と食事形態についてのまとめ
高齢者の食事形態は、現在の飲み込む力や噛むことの出来る食事内容などによって変化します。
食欲の減退や水分不足などを併発することが多いため、工夫をした食生活を提供していくことが必要となります。
加齢に伴い、起こる現象と個人の嗜好や生活スタイルを良く理解した後に、最も良い食事形態を選ぶ能力が必要です。